2024年1月30日

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株式会社福しん

(ラーメン・中華定食の飲食店)
所在地 豊島区目白5丁目313
代表者 代表取締役 高橋 順
資本金 5,000万円
従業員数 400名
設立年 1964年
企業HP https://fuku-sin.co.jp/

福しんは、地域に根差した中華料理チェーンとして、豊島区を中心に約30店舗を展開している。看板メニューである「手もみラーメン」を始めとした、長年愛される定番の品の数々は、国産野菜、自家製麺などの食材へのこだわりと、手間を惜しまない調理によって生み出されてきた。「あなたの街の食卓」を掲げる同社は、メインターゲットである男性一人客を中心にリピート客を大切にしており、特にオフィス街のランチタイムには長蛇の列ができるのもお馴染みの光景となっている。高橋 順 氏は、2005年に2代目として社長に就任して以降、長年にわたって築き上げてきたブランドを基に、ECやサブスクリプションモデル(以下、サブスク)どの新たな取組を積極的に打ち出してきた。

コロナ禍を契機に、ターゲットを広げた新店舗モデル

社長の高橋氏

「コロナ前後で比較すると客層が大きく変化しました」と高橋氏が語るように、最近の顧客層を見ると、ファミリー客が多く来店している傾向にあるという。ファミリー客の割合が拡大している理由について、「コロナ禍を経験して、特に飲食店においては、暗くて狭い店には入りづらいという雰囲気があると感じています。その点、福しんは明るくて清潔な店内というイメージがプラスに働いて、選ばれやすくなっているのではないか」と分析している。他にも要因は考えられるが、高橋氏はこの変化を前向きに捉えて、幅広い客層に来店してもらえるような取り組みを進めている。

「新しく展開している店舗は、平日はビジネス客がランチタイムや会社帰りに利用しやすい店を、週末はファミリー客をターゲットにしています。今までの店舗と大きく違う部分として、間口が広く、席の配置にゆとりを持たせたほか、木目調の家具を配置するなど明るい雰囲気作りを意識している」というように、以前からのリピート客を大切にしながらも、ファミリー客のさらなる拡大、ゆくゆくは女性一人客でも入りやすい店舗を目指しているという。

「現在の取り組みの一例として、わかりやすいのは池袋サンシャインシティ内に展開している店舗ではないでしょうか。世間の『福しん』に対するイメージは、駅前の大きな通り沿いにあって、店の外からカウンターが見えて、男性客がたくさんいるという印象を持つ方が多いかもしれません。池袋サンシャインシティは、平日はビジネス客、土日はファミリー客に来ていただける立地です。新しいモデルの『福しん』を実現できる理想的な場所でした」と高橋社長は語る。現在、展開している31店舗のうち、既に10店舗は新しいモデルの店舗となっている。従来よりも店舗面積の広い店が増えていることもあり、1店舗あたりの売上については2019年比で約10%増加しているという。

原材料価格高騰への対応、消費税増税時の対応および他社との差別化

幅広い客層に来店してもらえるよう、新しいモデルの店舗を展開している

国産野菜、自家製麺などのこだわりの食材を提供している同社だが、2021年から始まった原材料価格高騰による影響は大きく、「人件費、燃料費、物流費、資材等のあらゆるコストが上がっており、原価を基にコストを積み上げて売価を算出すると、到底お客さんに納得してもらえる値段には抑えられない」と、長らく続いているコスト高の状況を危惧している。

高橋氏は、価格設定の考え方について、「元々の値段を基準に、一律でいくら値上げしようという風に考えるのではなく、都度、新たなメニューブックを作るとしたら、値段と味、サービスの質に対して安く感じてもらえるかどうかを見直すようにしている」と語るように、各商品の値段設定には細心の注意を払いながらも、タイミングを図りつつ、思い切った値上げに踏み切ってきた。2022年には2度(一部商品のみ)、2023年にも1度(ほぼ全商品)、計3回の値上げを実施しており、来店客数に多少の変動はあるものの、売上高への大きな影響は感じていないという。

また、競合他社と位置付けている他企業の動向にも常に目を光らせている。福しんはラーメン、餃子、チャーハンを軸とした商品を提供する比較的安価な中華チェーン店に位置付けられるため、規模の大きさをいかして圧倒的な安さで脅威となっている他の中華チェーンと、どのように差別化を図るかが重要になる。

「どこで差別化するのかというのは常に考えていますが、安さのみで優位性を高めるのは我々のような中小企業にとっては非常に危険です。価格競争に巻き込まれないことに気をつけている」と高橋氏。「例えば、大手中華チェーンと比較すると、ビールジョッキ1杯あたりの値段は150円ほどの差があります。同じ土俵に立って同じビール値下げで対抗しても、負けてしまうのは明らかです」と、近年、大手中華チェーン界隈で人気を集めている“ちょい飲み“路線に流されることはなかった。

一方で、飲料以外の差別化しやすい料理においては、とことん美味しさを追及し、シビアに質の高さを求め続けている。「そのメニューが他社にはなかったり、味で差別化できている商品には、強気な値段設定をしています。多くのメニューで差別化できるように日々研究を重ねています」と料理の更なる進化に意欲を燃やしている。「日頃からお客様に、“福しんの料理は美味しい”と評価いただけることが多いです。これまで地域密着で培ってきたノウハウを存分に生かしながら、とにかく料理の味と質を向上させ続けることで、『福しん』ファンを増やしていきたいですね」と笑顔で語った。

新しい取り組み(餃子自動販売機、餃子サブスクの導入)

2021年、都内ではまだ珍しかった餃子自動販売機をいち早く導入した

同社では、20201月より、餃子のサブスクリプションサービスを始めている。月額500円で「福しんギョウザ定期券」を購入すると、1来店ごとに1人前(6個)の餃子が無料で食べられるサービス(条件付き)となっている。まさにコロナ禍による外食自粛の影響が出始めようとしている時期だったが、「せっかく餃子のサブスクがあるからお店に行こう」というお客さんが増え、サブスクを購入したお客さんについては、月に34回の来店頻度を減らすことなく、定期的に来店するお客さんを確保することに成功している。

また、2021年には、都内ではまだ珍しかった餃子自動販売機を導入した。業者との商談から約1か月という短期間で販売のオペレーションを整えて運用を始めると、たちまち夕方のニュース番組やネットニュースなどでも拡散されたことで、一気に認知が進んだ。

「元々、お店が営業していない夜間に少しでも売れればという気持ちで導入を決めたのですが、全く予想していない結果になりました。お昼頃や夕方4時頃に、買い物に来た主婦の方がついでに買っていく場面が目立つようになりました」と高橋氏。自動販売機であれば、買い物帰りでも気軽に購入できる点が主婦層を中心に支持を集めており、現在では豊島区を中心に15機が設置されている。「新しい販売経路を確立させることにつながり、思いがけず重要な収入源になっている」と、業界に先駆けて始めた取組が成功したことに喜びを見せる。

最後に、日頃から心掛けていることについて語ってくれた。

「まず、徹底して色んな情報を集めることを大事にしています。人から聞いたり、見たり、日々の情報収集は怠らないようにしています。そして集めた情報をできる限り、人に話すようにしています。話すことでその情報に価値があるのかどうかを判断できますし、自分の考えた論理や仮説を一層強くすることにもつながります。あとは、経営者として最後の決断をしなければならない時には、“直感”を信じることにしています」。

サブスクや餃子自動販売機の他にも、デリバリー販売や店舗内セルフオーダーの導入など、時代を見据えた戦略を次々に打ち出す高橋氏だが、その飽くなき探求心と行動力で『福しん』の新たな挑戦は続いていく。

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