2023年10月30日

株式会社東京蔵屋敷.com

(食料品販売(移動販売サービス))
所在地 東京都大田区久が原3-36-4
代表者 石塚 将武
資本金 300万円
従業員数 10名
設立年 2015年創業(2022年法人化)
企業HP https://tokyo-kurayashiki.com/

「美味しくて、健康的な食事を」届ける新たな流通の形

移動販売車にはたくさんの地元住民が並ぶ

東京蔵屋敷.comは、「美味しくて、健康的な食事を毎日食べたい」。そんな想いに寄り添う食料品店だ。季節の有機野菜やお魚、乳製品をはじめ、納豆や梅干し、干物などの加工品、調味料やおやつまで幅広く取り揃え、無添加食材を中心に販売している。Webサイト上では、商品のレシピを掲載し、食材をおいしく食べきる工夫を紹介している。

社長の石塚氏は、大学で神職資格を取得後、広告代理店と観光協会での勤務を経て独立開業した。都内の百貨店やスーパーでの催事における販売から始め、現在は移動販売車による食料品販売サービスと大田区久が原の食料品店、オンラインショップを運営している。

開業当初は「商品の在庫を保管する倉庫を借りる資金がなかったので、継続的に催事販売に出店することによって催事場の冷蔵庫や冷凍庫、バックヤードを利用しながらオンラインショップを運営していました。スーパーに来店するお客様は基本的に買うものが決まっていて、催事販売にはほとんど見向きもしなかったですね」と石塚氏は笑いながら話した。どうしたら、まず商品を見てもらえるのか、お客さんの視線誘導と話しかける“間”についての試行錯誤を繰り返し、売るスキルが上達したという。「お客様の買い物かごに入っているものを見て、その方の食の好みを知ることができますし、夕飯の献立を推測することもできます。瞬時にお客様の関心を引くような話題を考えて、視線が合った瞬間に自然とお声がけができるようになりました」と言う。

移動販売を始めたきっかけについては、「コロナ禍になって、試食販売を含めた催事販売がすべて中止になってしまいました。そこで、これまでは“多くの人が集まる場所”に出店してそのうちの一握りのお客さんに販売していましたが、“その一握りのお客さんが住んでいる場所”に出店するモデルに転換することを決めました」と石塚氏は振り返る。

独立して間もない頃は、催事販売と兼業して神社で働いていたこともあり、その経験や人脈を活かして都内高級住宅街の中にある神社で移動販売を開始したところ、地元住民における神社の認知度と信頼度も相まって、たくさんの来客があり売り上げを出すことができた。石塚氏は、神社にとっては氏子地域の新しい住民との接点づくりが課題になる中で、移動販売車がそのきっかけになれば、と考えており「神社にとってもプラスになるような取組を、神主さんと一緒に考えていき、その地域を盛り上げることに貢献していきたい」と話した。

共感を呼ぶ“仕入旅”による独自性で価格決定力を強化

石塚氏自らが日本全国の生産者を巡る

同社は、石塚氏自ら日本全国の生産者をまわって直接仕入れることに重きを置いている。「私たちはこれを“仕入旅”と呼んでいます」と石塚氏。仕入れにコストをかけることは非合理的だ、という常識から脱却して、とことん一つ一つの商品と向き合い、「“本当に良い”と感じたものだけを仕入れている」というのだ。

仕入れの重要なポイントについて、「美味しいものを食べて“嬉しい”という感動があるか、“また食べたい”という気持ちが心から込み上げてくるか、うちのお客様に喜んでもらえるかの3点です」と石塚氏は言う。さらに「自社の商品はどれも原価が高く、サラリーマンのバイヤーでは上司に説明不可能な基準で商品を選定しているので、結果的に独自性の高い商品ラインナップになっている」という。また、”仕入旅“についてもあえて偶然性を大切にしており、生産者や商品との出会いやその魅力を公式LINEやブログ、接客時に発信することで、オリジナルのストーリーをお客さんと共有している」ということだ。

同社は独自性の高い商品選定基準と、偶然性を帯びた魅力的な仕入旅のストーリーによって、コアなファン層を獲得し、価格決定力を強化している。

お客様の声に真摯に向き合い新たな挑戦を続ける

久が原のお店の前に立つ社長の石塚氏

店舗の公式LINEは登録者数が約4,000人、移動販売の公式LINEは、合計約5,000人が登録している。公式LINEを活用して頻繁に多くのお客様と直接チャットでやり取りをしている。石塚氏は「お客さまは“顔が見える関係性”だからこそ、チャットで感想を伝えてくれたり、質問をしてくれたり、良くないことも教えてくれます」と話す。「販売場所ごとにアカウントを分けて、1対Nの関係性が大きくなりすぎないように気をつけている」というのだ。

また、「質疑応答が一番の接客です」と話す石塚氏は、お客様が疑問に感じた質問に真摯に答えることで信頼関係を構築できると強調する。「スーパーでの催事場でお客様と接する中で、お客様の質問を誘い、それに対して的確に応えることで信頼を得て、さらにそこからお客様の自発的な質問が生まれる。そして、“買わない”という選択肢も含めて、お客様にとっての良い選択を助ける気持ちで真摯に質問に答えていくうちに信頼が蓄積されて、購入につながりました」と回想しながら話した。

同社は、「美味しく食べきってもらうまでが商売」という理念のもと、お客様からのお褒めの声や不満の声に真摯に向き合いながら成長するECサイトを目指している。石塚氏は、「現在は24か所で移動販売を実施していますが、同じ場所には月に1回しか行きません。毎日買いたいと考えてくれているお客様はいるので、移動販売車が来ない期間はオンラインショップをご利用いただければと考えています」と言う。将来的には、都内160箇所に移動販売を展開し、各地のお客様をオンラインショップへ誘導する予定だ。「売上規模が大きくなればその分新しい商品を仕入れることができる。そうやって少しずつ、新しい流通をつくっていきたい」と石塚氏。「“おいしいってうれしい!”という感動の輪をもっともっと広げていきたい」と石塚氏は熱く語った。

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