2023年11月17日

株式会社三益

(日本酒を中心とした酒類販売、角打ちスペース「三益の隣」運営)
所在地 東京都北区桐ヶ丘1-9-1-7
代表者 東海林 美保(代表取締役)
資本金 1,000万円
従業員数 12名(アルバイト5名含む)
設立年 1970年
企業HP https://mimasu-ya.com/

---(2023年11月掲載)-------------------------

会員制サブスクサービスで提供する顧客体験

三益倶楽部で届ける商品例

株式会社三益は、1948年に創業した「三益酒店」にて全国の地酒やオリジナルビールなどを販売している老舗の酒屋である。同社は、社長の東海林 美保氏が2代目店主の父・孝生から事業承継し、今では二人の妹も運営に加わり、三姉妹で事業を発展させている。唎酒師(※1)の資格をもつ三姉妹が自ら酒蔵に足を運び、日本各地から買い付けた地酒を「三益酒店」で取り揃え、隣接した角打ち(※2)スペース「三益の隣」では飲食を楽しめることができ、地域の方々を中心に賑わっている。

コロナ禍で開始した会員制サブスクリプションサービス「三益倶楽部」は、入会すると、毎月厳選された日本酒4合瓶と、お酒に合わせたおつまみが届く。また会員は、入荷数が少なく、店頭に並べられない希少価値の高い商品を購入することができるなど、会員限定の特典を享受できる。さらには月に一度、商品の蔵元との”zoom呑みが開催され、蔵元とお客様、そして三益倶楽部のお客様同士の交流の場も設けられている。

社長の東海林氏は「作り手の話を聞くことで商品の背景を知り、より美味しく飲むことができます」という。現在では120人程の会員が登録しているが、遠方に居住している会員が店舗まで足を運び、日本酒選びを楽しんだり、角打ちでの飲食を楽しんでいったりすることもよくあるという。「今後はもっと会員限定のイベントも開催していきたい、と考えています。年に3回、お花見、BBQ、忘年会、といったようなリアルの飲み会イベントを計画しています」と東海林氏。「北は秋田県から南は鹿児島県、と全国各地に会員様がいます。当会員サービスを介して、実際に会って一緒にお酒を楽しむことで、共通の話題もできますし、飲食を通じてお客様同士も仲良くなり、コミュニティが形成されお酒が好きな個人同士を繋げています」と話す。

販売している商品の美味しさといった価値だけではなく、その商品の作り手の想いや、蔵元や他のお客様とのコミュニケーションの場を提供することが付加価値となり、顧客満足度を向上させることができているのだ。

(※1)唎酒師(ききさけし)…
季節や料理に合った日本酒の提供や、銘柄に適したおすすめの飲み方を総合的にアドバイスできる資格。日本酒の歴史や文化にも精通している。
(※2)角打ち(かくうち)…
酒屋で購入した酒を、その店内の一角で立ち飲みすること。

オリジナル商品による来店するきっかけづくり

催事で販売した三益オリジナル商品セット

同社が注力している取組としては他にも、JRの駅における催事出店がある。赤羽駅と浦和駅で催事期間中に駅の催事スペースで商品を販売しているが、多くの人が行き来をする駅での出店においては、気軽に買い物ができるメリットがある。特に、店舗が駅から離れている同社にとっては、お店の宣伝効果もあり、新規顧客の開拓につながっているという。「1,2年目はクラフトビールを販売しました。当社オリジナルでつくった“赤羽ルービー”という地元にちなんだものや、“ごぼうビール”、“生姜ビール”を販売し、かなり好評でした」と東海林氏は話す。また、「地元のクラフトビールのブリュワリーと連携して、ビールを販売することで、地域全体を盛り上げていきたい、と考えました」という。

お客様からビールだけではなく日本酒も購入したい、という要望もあり、3年目となる今年の催事出店においては日本酒の販売も実施した。都内では手に入らない希少な地酒に、同社のオリジナルラベルを貼って販売し、売り上げは好調だったという。

催事出店において課題となっていたのは、一度購入したお客様が店舗に来店するきっかけづくりであった。そこで、同社は商品とセット販売しているオリジナルグッズの“お猪口”を来店時に持参すると、隣接の角打ちにて裏メニューが提供されるというサービスを開始した。角打ちで飲んで気に入った商品を、店舗で買ってくれるお客様も多く、オンラインショップよりも店舗で実際にスタッフの話を聞きながら買い物をしていただくことで、より商品の魅力を伝えることができ、「ついで買い」を促すこともできるということだ。

日本酒の魅力を発信し、日本の伝統文化を継承

『三益ちゃんねる』では地酒の入荷情報や「押し酒」の紹介もしている

今後の展望について、東海林氏は「より多くのお客様に当店を知ってもらい、当店の商品を通じて日本酒を飲むことを楽しんでもらいたい」と話す。サブスクリプションサービスの「三益倶楽部」においては、サービス開始当初は登録者数が増えず苦労をした経験がある。「どうやって宣伝し、登録数を増やしていくのかかなり悩みました。今も順調に登録数が右肩上がりで増えているわけではありません。新規性を打ち出していきたいとは考えているものの、なかなか難しいのが現状です」と東海林氏。「ただ、YouTubeなどのSNSを活用し、商品の魅力を発信する工夫は続けています。より日本酒の良さを知ってもらい、客層を広げていきたいです」と語った。

現在は、「三益ちゃんねる」として日本酒の美味しさを伝えるショート動画等を通じて発信しており、視聴したお客様がSNS上で商品の取り置きをお願いすることもあるという。月に1度YouTubeライブも配信しているが、現在では3,000名がチャンネル登録しており、将来的には10,000名の登録者数を目指していく。「ライブ配信は効果的なツールです。登録者数も定期的なライブ配信を初めてから増え続けています。お客様も店舗で説明を聞いているように、商品についてよく理解してもらえるからかもしれません」と東海林氏。「視聴者は、紹介したお酒に合わせて食べる食材はどんなものが良いのか、その地酒の地域の文化なども知りたがっています」と話す。「日本酒は斜陽産業と言われてはいますが、日本が誇るべき文化だと思っています。インバウンドも含めた多くの人に日本酒を味わってもらい、伝統文化として継承していきたい」と笑顔で話した。

---(2023年3月掲載)-------------------------

父親から三姉妹への事業承継

三姉妹の酒屋(左から美香さん、美保さん、由美さん)

三姉妹の酒屋(左から美香さん、美保さん、由美さん)

一般企業への勤務を経験した後、家業の酒屋に就職した現社長の美保さん。当初は、先代である父親のカラーが強く、昔からのお客様に期待されていないと感じたそう。「自分の居場所は自分で作れ」と先代に言われ、日替わり店長ができるお店で週一で日本酒を提供する飲食店を出店するなど、新しい挑戦を続けた。それでも、周りには「家業のお手伝い」をしているといわれて、本格的に世代交代について考えるように。事業承継の様々なタイミングについて周囲の経験者から情報を集め、検討したところ、先代が引退する時ではなく、脂が乗っているときに承継することになった。

酒屋の新しい取組み

所狭しと日本酒が並べられた店舗、隣には角打ちが併設されている。

所狭しと日本酒が並べられた店舗、 隣には角打ちが併設されている。

コロナ禍で発注が減少した頃、スタッフでの話し合いの末、クラウドファンディングによる店舗改装を行った。忙しい時期に営業を継続しながら改装するのは難しいが、時間的に余裕があったため実現した。「ピンチはチャンス」の精神で“ワクワクを創出する酒屋”を目指し、取り組んでいる。オンラインで酒屋・蔵元・お客様をつなぐ利き酒会を開催したり、地域のお子さんの居場所を作る子ども食堂を開いたり、酒屋の枠を超えた取組みを続けている。

お客様の喜ぶことをすると、店が愛される

オンライン利き酒会では、月に1本お酒とその土地のおつまみをセットで発送して、当日はその蔵元に参加してもらうのだそう。「お客様が喜ぶことをいつも考えている」と話す社長。その結果として、お店が愛されるようになる。父から受け継いだ三姉妹の酒屋は、もう新しい色になっている。今後は日本の食文化を学び、継承しながら、全国を駆け回る予定だ。

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