2024年5月24日

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株式会社宝寿園

(自然健康食品の製造・販売)
所在地 東京都新宿区岩戸町4番地
代表者 倉持有二(代表取締役)
資本金 1,000万円
従業員数 9人
設立年 1993年
企業HP https://www.houju.co.jp/

株式会社宝寿園は、野草十八茶「宝寿茶」をはじめとした自然健康食品を提供する食品メーカーとして、2023年に創業30年を迎えた。元々、歌舞伎町に構える老舗日本料理店「新宿 あぐら屋」において料理の〆として提供していたお茶が人気を博したことで、「宝寿茶」として販売を行うに至り、現在でも売上のほとんど(8割)を占めている。

原材料にこだわった商品を開発しメインターゲット層にPR

看板商品の宝寿茶

同社の代表商品である「宝寿茶」は、日本料理店の料理人と漢方の専門家が三年の歳月をかけ開発したこだわりの商品である。原材料に18種の野草を使用し、素材ごとに焙煎の温度と時間を変えることで、独特の風味と飲み飽きないさっぱりとした風味を生み出した。東京新宿で昭和49年に創業した老舗日本料理「新宿 あぐら屋」で提供をはじめて以来、現在ではTVショッピングなどでも、ベストセラー商品として販売されている。

取締役 事業本部長の倉持順一氏(以下倉持)は、「元々『宝寿茶』は商品として販売していたわけではありませんが、『新宿あぐら屋』で飲食していただいた芸能人や著名人の方などからの手土産需要があり、商品化しました。さらにはこの商品を気に入っていただいた方々が、グルメ番組や情報番組で紹介していただいたことで、通販サイトの企業などから引き合いがあり、販売を開始しました」と話す。

同商品は特に原材料にこだわり、野草栽培の農家を直接見に行き、野草の選定を行っている。ただ、独自性や商品の良さを消費者にアピールすることは簡単なことではない。「より安く、おしゃれで健康を売りにした食品はどんどん出てきています。若い方が好むようなハーブティーの専門店に対抗していくことは難しく、試行錯誤の日々です。」と倉持氏。

現在は、新たな機能性食品を含む複数の商品開発を行っているが、メインターゲット層である60代や70代の顧客へ効果的に響くようなPR方法を模索している。「私たちの商品に関していうと、若い方よりもやはり健康に関心の高いご年配の方に買っていただくことが多いです。若い方にターゲットを変えるよりも、より好んでいただける方へのプロモーションに力を入れています。わかりやすい例だと、若い年代の方に比べ、インスタグラムなどよりfacebookを活用されているお客様が多いので、広告については、的確にセグメントを行って運用しています」と話した。

取引先との交渉を通じたコストの削減

価格転嫁についても課題は山積している。年々、原材料の値上がりや調達コスト、為替の影響を受けて原価の割合が高くなっている。「コロナ禍では巣篭もり需要が追い風となって、多少は売上が上昇しました。家の時間が増えたことによって、今まで外出時にペットボトル飲料を買っていた方々も、家でお茶を飲むようになったのだと思います。また、おうち時間を充実させるべく、身体に良い健康茶を煮出して飲む、という方も増えたのではないでしょうか」と倉持氏。「ただ、漢方の本場である中国から仕入れる薬草も多く、国内で材料を調達するよりも流通コストがかさみ、為替リスクも伴います。コロナ禍では、海外の仕入れ先との流通が滞り、調達に係る費用がさらに増加してしまいました。また、茶葉を焙煎する行程がどうしても必要なため、工場の稼働を抑えることは難しく、直近のエネルギー価格の高騰に起因する光熱費の上昇の影響も大きいです」と言う。

価格転嫁の代わりに講じたのが、取引先に対する業務分担の交渉だった。倉持氏は、「ここ数年のコスト上昇については取引先の担当者様にも気にかけていただき、商品価格の値上げ提案も受け入れてはくれています。ただやはり商品の小売価格を上げると売上が下がってしまう、という懸念もあります。そこで、交渉した中で最も効果が大きかったことが、ピッキング業務(注1)をお任せすることができたことです」と話す。以前は、島根県の工場で製造された製品を、本社で一度荷受けし、お客様の注文ごとに梱包してから、卸先に納品していた。そのため本社において、販売商品を箱詰めするなどの倉庫作業を担う必要があり、業務負荷がかかっていた。「納品時期が重なると、数千~数万の梱包数になるため本社に商品を保管するスペースが足りないことに加えて、商品の仕分けなどにかなりの人員を要する、などといった問題も生じていました」と倉持氏。原価にかかるコストと商品の値上げ価格を取引先に示したうえで、ピッキング業務の分担によっては値上げ幅を下げることができる旨交渉した結果、取引先が業務負担を受け入れることになり工場から納品先に商品を直送できるようになった。「在庫の管理において省スペース化できただけではなく、物流コストの削減や業務負担の軽減にもつながり、省力化することができました」と話した。

(注1)ピッキング業務…倉庫内にある商品の中から出荷指示のあったものを集める作業。

ピッキング業務イメージ

ITツールの導入により業務効率化に成功

今回お話をお聞きした、取締役事業本部長の倉持順一氏

同社は自社開発したシステムを使用し消費者向けの販売管理業務を行っていたが、年々管理件数が増えることによりデータ容量が増加し、システムの動作が遅くなることが課題となっていた。これに伴い、伝票入力発行業務や出荷業務処理に係る業務時間が長時間化することで、人員が足りず、電話対応などの対外的なサービスの質の低下を招いていた。ただ、自社開発システムは、お客様のお届け日時の細かい指定や過去の購入実績、電話などの内容も書き込むことができるもので、同社が販売管理をするために必要な仕様が全て組み込まれていたため、これに見合ったシステムの開発をすると膨大な費用がかかってしまうこともあり、なかなかシステムの切り替えをすることができずにいた。

倉持氏は「例えば、定期購入の場合、当社では毎月一括した発送をしているわけではありません。お客様によって、第3水曜日の午前中や年金の振り込まれる日に合わせてお届け、といった希望日に合わせて発送しています。こうするとオペレーションは複雑になりますが、こうしたお客様の要望にもちゃんと応えたシステムを作りたかったのです。ただ、内製したシステムは、増税対応など何かしらの課題がある度に、修復のコストや業務負荷も非常にかかっていました。システム開発をする予算もなく、悩んでいたところに『IT導入補助金』(注2)の話を聞き、ようやく新たなシステム開発に踏み切れました。」と話す。IT⽀援業者からの具体的な仕様提案については、運⽤⽅法などを徹底的に話し合うことで、旧システムからのデータ移⾏と新システムの運⽤開始をスムーズに推進した結果、販売管理における業務処理時間について大幅に短縮でき、2人で1日かけていた業務を1人2時間で処理できるようになった。

「売上が増大するとどうしても人員を増やすことで対応しようとしますが、当然閑散期には余剰人員ということになってしまいます。スポットで繁忙期にだけ人員を増やしても、なかなか教育に時間をかけることができず、結局仕事になじめずすぐに辞めてしまう、ということもありました」と倉持氏。今後については、「積極的なデジタル活用により事務作業の負担を減らし、営業部の人員などを本来行うべき業務に集中させることが大事だと思います。私たちは、ITを活用することで、省人化と売上拡大の両方を同時に目指していきたいと考えています」と語った。

 

(注2)IT導入補助金…中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金。

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